後大腿皮神経および下殿皮神経による殿部痛を診るためのプロセス

“後大腿皮神経”および“下殿皮神経”による障害を意識したことがある医療者はそれほど多くないと思います。
しかし、注意深く診ていくと、後大腿皮神経および下殿皮神経の障害による下殿部痛や大腿後面部痛を有する患者は、どの施設にいても一定数いると思います。
そこで、今回のブログでは、後大腿皮神経および下殿皮神経を診る際に必要な解剖学的な知識と第3水準の評価までのプロセスを紹介したいと思います。
まずは解剖から確認していきましょう。
下の図を見てください。
後大腿皮神経は、仙骨神経叢(S1〜S3)から分岐し、一旦、骨盤内に入って梨状筋下孔から大殿筋と仙結節靭帯の間を走行し、大腿後面で皮神経となって大腿後面の皮膚知覚を支配しています。
さらに、大殿筋の深層で下殿皮神経が分岐し、下殿部から大殿筋の表層へ回り込むように走行して下殿部の皮膚知覚を支配します。
そのため、後大腿皮神経および下殿皮神経を生じると、下殿部痛から大腿後面に痛みやシビレを生じることが多いです。
つまり、問診の中で「痛みやシビレが下殿部痛から大腿後面だけに生じている」と訴えがあった場合には、後大腿皮神経および下殿皮神経障害による症状の可能性あります。
後大腿皮神経および下殿皮神経障害が疑われた場合に、私は第2水準の評価として、下図の膝関節軽度屈曲位でのSLRテストを行い、下殿部や大腿後面近位に症状の訴えがあるかを確認します。
この際、膝関節伸展位で行ってしまうと、ハムストリングスが先に伸張されてしまい、適切に第2水準の評価を行うことができないため、軽度屈曲位にすることがポイントです。
このテストを行った際、通常、健常者では大腿後面に張り感を訴えることはあっても、下殿部に張り感や痛みを訴えることはありません。
一方で、下殿部に張り感や痛みを訴えた場合には、後大腿皮神経および下殿皮神経による症状の可能性が高いと判断できます。
そして実際の治療部位ですが、絞扼部位として多いのは、梨状筋下孔、大殿筋と仙結節靱帯の間、下殿部から大腿後面の筋膜の3ヵ所だと思います(下図)。
このうち、前者の2箇所は特に絞扼を生じやすく、実際にこの2ヵ所の滑走性を促すことで、症状がその場でかなり改善することは、臨床でよく経験します。
いかがでしょうか。
後大腿皮神経および下殿皮神経障害を診る際に必要な解剖学的な知識と実際のプロセスについてお分かりいただけたのではないでしょうか。
重要なこととして、下殿部痛から大腿後面に痛みやシビレがあるからといって、後大腿皮神経および下殿皮神経障害と思い込むのは絶対にダメです。
第3水準の評価を行い、症状がその場で消失もしくはかなり改善して初めて、高い確率で痛みの原因組織だったと言い切ることができます。
このことを常に念頭に置いて臨床に向き合ってください。
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【工藤慎太郎先生】1単位で診る!外来痛みシリーズ 運動器疾患の痛みの「なぜ?」がわかる~足関節 座学編~
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関節の伸展制限で特に問題になる,半膜様筋の構造、腓腹筋内側頭と周辺構造の位置関係を詳細に理解して,その周囲の疎性結合組織に対する治療の重要性を理解してもらいます。
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【小泉圭介先生】小泉先生が考えるコンディショニングトレーニング 下肢・体幹編
◆講 師:小泉圭介先生
◆開催日:2025年10月13日 (月・祝) 10:00 – 13:00
概要
概要
体幹の安定性という定義はスポーツ競技によって異なります。それぞれの動作によって求められる機能が異なるため、何が必要とされているかを見極める能力が求められます。いわゆる体幹の剛体としての固定力が必要なのか、それとも骨盤帯の回旋安定性が必要なのか、はたまた下肢と体幹の連動が必要なのかという点を整理して考えることが重要です。そして、どうやってNeutral zoneでの脊椎アライメントコントロールを学習し定着させるかがポイントになります。
今回の講習では、私が日頃行っているコンディショニングトレーニング小泉メソッドから、骨盤コントロールの評価とエクササイズのデモンストレーションをご紹介できればと思っています。
セミナー内容
・下肢と体幹の運動学を簡単に復習し、一般的に求められる機能と競技スポーツで求められるレベルの機能について再確認いただきます。
・競技者のコンディショニングで実施しているトレーニングについて、特に骨盤安定性の評価と下肢体幹連動エクササイズを例にご説明します。
・実際に小泉がどのようにエクササイズを行うか、デモンストレーションを通じてご紹介します。
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【吉尾雅春先生】股関節前面痛のインピンジメントを解剖学・神経学的視点から考察する~原因の特定とクリニカルリーズニングの重要性
◆講 師:吉尾雅春先生
◆開催日:2025年10月19日 (日) 9:00 – 12:00
概要
発症後数か月経過した脳卒中者のうち2割程度が股関節前面に痛みを持つ。しかし、その痛みがなぜ起きるのかという議論はあまりなされていない。必然的に当該部位へのアプローチは曖昧で、仕上げはなぜか「他動的なROM ex.」である。受傷後1年以内の脊髄損傷者では股関節前面に異所性骨化が散見され、手術適応になる。両者に共通していることは中枢神経障害に伴う運動麻痺である。改めて股関節の解剖学的特徴と股関節屈曲運動の構成を理解することが必要である。すると、運動麻痺者に限らず、脊柱をはじめとする体幹に問題を持つ人や健常者においてさえも股関節前面にインピンジメントを惹起する可能性が高いことに気づくことができる。
股関節の構造によるもの、疾病特有の運動障害に伴うもの、活動性の変化に影響を受ける時期的なもの、生活歴に関連するものなど、視野を広げて検討しなければならないが、本セミナーでは以下のことについて触れながら考えてみたい。
・脳卒中者や脊髄損傷者にみられる股関節前面の病態
・股関節および周辺の基本的な構造
・股関節屈曲運動の構成と問題
・股関節前面のインピンジメントの可視化
・運動障害に伴う股関節前面のインピンジメント
・生活歴と股関節前面のインピンジメント
・その他
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【松本正知先生】松本先生はこう考える!! 四辺形間隙(QLS)症候群、肩甲上神経絞扼障害、胸郭出口症候群に対する評価と運動療法
◆講 師:松本正知先生
◆開催日:2025年10月25日 (土) 17:30 – 20:30
概要
到達目標
① 四辺形間隙(QLS)、肩甲上神経周辺の肩甲骨、胸郭出口の解剖学的な特徴を理解する
② QLS症候群、肩甲上神経絞扼障害・症候群(SNES)、胸郭出口症候群(TOS)の概要を理解する
③ 上記3疾患に対する評価を理解する
④ 上記3疾患に対する運動療法の考え方を理解する
⑤ ①~④の理解を通し、セラピストが患者さんへ提供できる運動療法を再考する
QLS症候群、SNES、TOSは腕神経叢のそれぞれに関わる神経の絞扼性神経障害であり、共通の症状として肩の外側から後方の痛みや放散痛、筋力低下に伴う挙上動作の困難、感覚障害などが上げられます。これらの疾患に対する基本的な運動療法の考え方は、同じと思います。末梢神経へのアプローチだけでなく、その周辺のfascia、肩甲上腕関節や肩甲骨の機能の回復、全身的な(特に股関節より近位)柔軟性や筋力を改善する必要があります。ただそれだけでは、不足していると考えます。
本講義では、①~④を到達目標とし、⑤でその不足していると思われる運動療法を考えたいと思います。
応募はこちらから
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※新型コロナウイルスの影響により、現在会場セミナーは中止しております。
Zoomセミナーは詳細が決まり次第、掲載していきます。
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