滑走障害はなぜ起こるのか?②

今回は「滑走障害が生じる理由」を4回に渡って解説するブログの第2回目になります。
前回のブログでは、私が考える滑走障害が生じる4つの理由のうち、「組織の損傷および炎症を起点に生じる滑走障害」について深掘りして解説しました。
組織損傷ならびに炎症が生じた際に滑走障害が生じるメカニズムの整理と改善方法の参考になったと思います。
今回のブログでは、滑走障害が生じる4つの理由の中で、「摩擦負荷の繰り返しによって生じる滑走障害」について解説したいと思います。
普段から運動器の患者を診ているセラピストであれば、摩擦負荷が繰り返されることで炎症が起き、滑走障害を生じることはイメージしやすいと思います。
一方で、正常でも摩擦負荷が生じているにも関わらず、滑走障害を生じることが少ないのはなぜでしょうか。
この疑問の答えを、今回のブログでは分かりやすく説明しているので、最後までご覧ください。
摩擦負荷が繰り返されることによって生じる滑走障害
運動によって過度な摩擦負荷が繰り返されると、負荷を受けた組織に炎症が生じるようになります(下図)。
前回のブログでも説明したように、炎症が生じると線維芽細胞による膠原線維(コラーゲン)が産生され、炎症部位周辺を線維化させます。そのため、炎症部位とその周辺組織の間の滑走性は低下することになります。
ただし、臨床的な観点で摩擦負荷を考える上で大切な概念があります。
それは、生理的な摩擦負荷の繰り返しだけでは通常は炎症を生じないということです。
このことを理解するために下図を見てください。
例えばハムストリングスを例に挙げると、下図 aのようにハムストリングスは股関節や膝関節の屈伸に伴い、その深層の骨や神経、その他の軟部組織などとの滑走を伴います。
この滑走により摩擦負荷は生じますが、このような生理的な滑走だけでは通常は炎症を生じることはほとんどありません。
しかし、下図bのように骨盤前傾や後方変位など股関節伸展モーメントが過剰になる運動を行うと、生理的な滑走とは異なる異常な摩擦負荷が生じるようになります。
また、下図cのようにハムストリングスの一部に癒着や滑走性低下が生じていると、これもまた生理的な滑走とは異なる異常な摩擦負荷が生じるようになります。
このような生理的な滑走とは異なる摩擦負荷を繰り返されると炎症を生じるようになります。
臨床では下図bや下図cで示したようなシチュエーションは非常に多いのです。
さらに、膝蓋下脂肪体を例に考えてみましょう。
下図は正常な膝関節における伸展位と屈曲位における膝蓋下脂肪体の位置変化を示しています。
膝蓋下脂肪体は、膝関節伸展位では膝蓋骨の下方だけでなく膝蓋骨の内側・外側も含めた広範囲に位置します(下図a)。
一方で、膝関節屈曲位ではその多くが膝の関節内に入り込みます(下図b)。
このように、膝蓋下脂肪体は膝の屈伸運動に伴い滑走し、摩擦負荷は生じますが、このような生理的な滑走だけでは炎症を生じることはほとんどありません。
しかし、膝関節の外旋があると生理的な滑走とは異なる摩擦負荷が生じると私は考えています。
膝蓋下脂肪体に疼痛を生じる症例の大半は、膝関節が過度な外旋位を呈しています。
下図aや下図bのように膝関節が捻れていると、膝関節を取り囲む滑膜、関節包、靱帯、腱などの組織は伸張された状態になります。膝蓋下脂肪体は関節包内に存在する組織であるため、膝関節を取り囲む組織に大きく影響を受けることになります(下図c)。
これらのことから、膝関節の屈伸に伴い縦に移動する膝蓋下脂肪体は、狭い経路を移動せざるを得なくなり、移動時に加わる生理的な滑走とは異なる摩擦負荷の繰り返しが膝蓋下脂肪体の炎症を生じさせ、滑走障害を惹起すると私は考えています(下図d)。
いかがでしたか。
「摩擦負荷の繰り返しによって生じる滑走性低下」のメカニズムについて理解いただけたと思います。
摩擦負荷を考える際には、「非生理的な摩擦負荷」が生じている要因を評価から見出すことも私たちの大切な役割になります。
このような視点は、皆さんの臨床に必ず役立つ知識になると思います。
次回のブログでは、私が考える滑走障害が生じる4つの理由の中から「短縮した肢位および伸張した肢位の持続によって生じる滑走障害」について解説したいと思います。
次回のブログも楽しみにしていてください。
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概要
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なぜこの機能が重要なのかを解説し、機能障害や疾患との関連性を理解していただきます。
ホモサピエンスとしての人類学的な視点を持って障害をとらえると見えてくることがあります。
また、セラピストとして、自分自身の身体感覚が治療に与える影響や、患者への説得力という点も指摘をし、自ら動けることで臨床がどう変わるかも示唆を与えたいと思います。
臨床で使えるピラティスの基本的なエクササイズをいくつか紹介し、明日から使える手札も習得してもらいたいと思っています。
特に私が主催しているフォームローラーを用いたピラティスの臨床応用方法をお伝えします。
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【永井聡先生】外来整形外科で多い股関節障害に対する評価と運動療法~影響発生源をどのように特定して治療するか?隣接関節からの影響編~
◆講 師:永井聡先生
◆開催日:2025年9月20日(土)19:00 – 20:30
概要
整形クリニックに来院する股関節疾患の患者の多くは、変形性股関節症やFAIによる症状がメインになります。
その症例の股関節痛や跛行の原因は、隣接関節からの影響も多く、身体全体を診て評価する事が重要です。
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整形外科疾患の疼痛や愁訴の改善には、単関節のみのアプローチでは改善できない事も多く、今回股関節からの介入を通じて隣接関節との関連を分析考察していく過程を学んでいきます。
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【松田現先生】臨床に多い肩関節痛に対するPNFの臨床応用~拘縮・夜間通・インピンジメントに着目して~
◆講 師:松田現先生
◆開催日:2025年9月27日(土)18:00 – 21:00
概要
人間の身体では中枢神経疾患でも、運動器疾患でも共通して短縮しやすい筋や働きにくくなる筋があります。目に見える部分の動きの感覚は鋭敏で、目の届かない部分の動きに対して鈍麻しやすいのも変わりません。
また、足底から下肢、骨盤帯、体幹を経由して上肢帯の動きがあるということを踏まえると全身の動きやアライメントを適切に評価できることが私達には求められます。
このセミナーでは単に肩関節に対してどのようなパターンを用いるのかというような方法論だけではなく、根本的に人間の身体というものを「感覚」という視点からどう捉えるのか、その感覚を変化させて症状を緩和の方向へ導くための道筋を紹介させていただきます。
どの肢位で行うのか、それは何故か。
PNFパターンを用いるのか、マット動作を用いるのか、歩行介入の中から行うのか、それは何故か。
どのPNFテクニックを組み合わせるのか、それは何故か。
どの症例にもそれぞれの病歴、病態、その人特有の身体的・感覚的特徴があります。それを踏まえて何を選択するのか、私達には大きな責任が伴います。
自身を持って肩関節疾患に対して対峙できるように、当日は様々な方法を提示させていただきます。
よろしくお願いいたします。
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【工藤慎太郎先生】1単位で診る!外来痛みシリーズ 運動器疾患の痛みの「なぜ?」がわかる~足関節 座学編~
◆講 師:工藤慎太郎先生
◆開催日:2025年10月04日 (土) 18:30 – 20:30
概要
関節の伸展制限で特に問題になる,半膜様筋の構造、腓腹筋内側頭と周辺構造の位置関係を詳細に理解して,その周囲の疎性結合組織に対する治療の重要性を理解してもらいます。
また伸展制限により悪化する関節周囲構造の機能的破綻とそれらに対する運動量を解説します。
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【小泉圭介先生】小泉先生が考えるコンディショニングトレーニング 下肢・体幹編
◆講 師:小泉圭介先生
◆開催日:2025年10月13日 (月・祝) 10:00 – 13:00
概要
概要
体幹の安定性という定義はスポーツ競技によって異なります。それぞれの動作によって求められる機能が異なるため、何が必要とされているかを見極める能力が求められます。いわゆる体幹の剛体としての固定力が必要なのか、それとも骨盤帯の回旋安定性が必要なのか、はたまた下肢と体幹の連動が必要なのかという点を整理して考えることが重要です。そして、どうやってNeutral zoneでの脊椎アライメントコントロールを学習し定着させるかがポイントになります。
今回の講習では、私が日頃行っているコンディショニングトレーニング小泉メソッドから、骨盤コントロールの評価とエクササイズのデモンストレーションをご紹介できればと思っています。
セミナー内容
・下肢と体幹の運動学を簡単に復習し、一般的に求められる機能と競技スポーツで求められるレベルの機能について再確認いただきます。
・競技者のコンディショニングで実施しているトレーニングについて、特に骨盤安定性の評価と下肢体幹連動エクササイズを例にご説明します。
・実際に小泉がどのようにエクササイズを行うか、デモンストレーションを通じてご紹介します。
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【吉尾雅春先生】股関節前面痛のインピンジメントを解剖学・神経学的視点から考察する~原因の特定とクリニカルリーズニングの重要性
◆講 師:吉尾雅春先生
◆開催日:2025年10月19日 (日) 9:00 – 12:00
概要
発症後数か月経過した脳卒中者のうち2割程度が股関節前面に痛みを持つ。しかし、その痛みがなぜ起きるのかという議論はあまりなされていない。必然的に当該部位へのアプローチは曖昧で、仕上げはなぜか「他動的なROM ex.」である。受傷後1年以内の脊髄損傷者では股関節前面に異所性骨化が散見され、手術適応になる。両者に共通していることは中枢神経障害に伴う運動麻痺である。改めて股関節の解剖学的特徴と股関節屈曲運動の構成を理解することが必要である。すると、運動麻痺者に限らず、脊柱をはじめとする体幹に問題を持つ人や健常者においてさえも股関節前面にインピンジメントを惹起する可能性が高いことに気づくことができる。
股関節の構造によるもの、疾病特有の運動障害に伴うもの、活動性の変化に影響を受ける時期的なもの、生活歴に関連するものなど、視野を広げて検討しなければならないが、本セミナーでは以下のことについて触れながら考えてみたい。
・脳卒中者や脊髄損傷者にみられる股関節前面の病態
・股関節および周辺の基本的な構造
・股関節屈曲運動の構成と問題
・股関節前面のインピンジメントの可視化
・運動障害に伴う股関節前面のインピンジメント
・生活歴と股関節前面のインピンジメント
・その他
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【松本正知先生】松本先生はこう考える!! 四辺形間隙(QLS)症候群、肩甲上神経絞扼障害、胸郭出口症候群に対する評価と運動療法
◆講 師:松本正知先生
◆開催日:2025年10月25日 (土) 17:30 – 20:30
概要
到達目標
① 四辺形間隙(QLS)、肩甲上神経周辺の肩甲骨、胸郭出口の解剖学的な特徴を理解する
② QLS症候群、肩甲上神経絞扼障害・症候群(SNES)、胸郭出口症候群(TOS)の概要を理解する
③ 上記3疾患に対する評価を理解する
④ 上記3疾患に対する運動療法の考え方を理解する
⑤ ①~④の理解を通し、セラピストが患者さんへ提供できる運動療法を再考する
QLS症候群、SNES、TOSは腕神経叢のそれぞれに関わる神経の絞扼性神経障害であり、共通の症状として肩の外側から後方の痛みや放散痛、筋力低下に伴う挙上動作の困難、感覚障害などが上げられます。これらの疾患に対する基本的な運動療法の考え方は、同じと思います。末梢神経へのアプローチだけでなく、その周辺のfascia、肩甲上腕関節や肩甲骨の機能の回復、全身的な(特に股関節より近位)柔軟性や筋力を改善する必要があります。ただそれだけでは、不足していると考えます。
本講義では、①~④を到達目標とし、⑤でその不足していると思われる運動療法を考えたいと思います。
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※新型コロナウイルスの影響により、現在会場セミナーは中止しております。
Zoomセミナーは詳細が決まり次第、掲載していきます。
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