坐骨神経痛と診断された患者の3つ病態とテクニック

坐骨神経痛は、私たちの臨床で非常によく見受ける痛みの1つです。
多くの医療者が、坐骨神経痛と聞くと、その痛みが腰部疾患に由来して生じていると考えています。
しかし、実際には腰部とは関係なく、腰部よりも末梢での絞扼によって症状が生じていることはよくあります。
そこで今回のブログでは、私が考える坐骨神経痛と診断された患者の3つの病態について解説したいと思います。
医師から私たちセラピストに「坐骨神経痛」と診断されて処方された患者の病態として、主に3つの病態があると私は考えています。
その3つとは、、、
ⅰ)「腰部での絞扼」
ⅱ)「末梢神経での絞扼」
ⅲ)「皮神経の筋膜での絞扼」です。
このことをついてはあまりにも臨床的に重要であることから1つずつ説明しておきましょう。
ⅰ) 腰部での絞扼
脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアは、腰部で脊髄神経や神経根を圧迫するため、これに伴い坐骨神経痛が生じます。
脊柱管の狭窄や椎間板ヘルニアによって下肢に痛みやしびれの症状が生じている場合は、手術を行うことで劇的に症状が緩和することを私たちはよく経験します。
ただし、坐骨神経痛と聞くと、ほとんどの医療者は腰部での絞扼をイメージしますが、私の感覚では次の末梢神経や筋膜での絞扼によって症状が生じていることもかなり多いと言えます。
そのため、腰部での絞扼と、末梢神経や筋膜での絞扼を鑑別するための知識と技術が私たちセラピストには求められます。

ⅱ) 末梢神経での絞扼
坐骨神経は大坐骨孔(梨状筋下孔)から骨盤外に出て来ますが、この部位を含めそれより末梢での坐骨神経、脛骨神経、腓骨神経での絞扼をいいます。
お尻から下肢にかけての痛みやしびれがあるということは、当然、お尻や下肢を走行する末梢神経に問題があっても症状が出ます。これを踏まえ、坐骨神経、脛骨神経、腓骨神経の走行を正確に理解し、必要な部位の滑走性や伸張性を促すテクニックを習得すれば、末梢神経での絞扼による症状を減弱することができます。
絞扼部位として多いのは、梨状筋下孔、大殿筋と外旋筋の筋間、外側ハムストリングスの深層の3ヵ所だと思います。実際にこの3ヵ所の滑走性や伸張性を促すことで、症状がその場でかなり改善することは、臨床でよく経験します。

ⅲ.皮神経の筋膜層での絞扼
皮神経は厳密には末梢神経ですが、私の臨床では区分けして考えています。
皮神経は深筋膜および浅筋膜などの筋膜層を走行しているため、筋膜層で絞扼を受けると考えられます(下図)。
人間の身体は外側からみていくと、皮膚があり、脂肪層があり、その下に筋肉があります。
筋膜は脂肪層と筋肉の間や、筋肉と筋肉の間にある膜で、筋膜層の中には下図のように神経が髪の毛のように細く広く入り込んでいます。
エコー(超音波検査)で観察すると筋膜層は非常に長い距離を滑走することが見て取れます。
しかし、筋膜層が硬くなって滑走性が低下すると、身体を動かすたびに皮神経は伸張負荷を生じることになります。それによって痛みやしびれが広い範囲で出てきてしまうと考えられます。

筋膜が注目されるようになったきっかけはエコーです。以前から女性が妊娠中に胎児のようすを見るときにエコーの機械を使われていましたが、このエコーの機械が整形外科の分野で使われるようになったのは、この10〜20年くらいでしょうか。
エコー検査をすると硬くなった筋膜層が白く厚くなっているのが見えることがあります(癒着や瘢痕化などが原因)。
そして、肩こりなどの痛みのある患者さんに対して、エコーの画像を確認しながら筋膜層に薬液(生理食塩水とごく少量の麻酔薬と鎮痛薬)を注射すると、痛みが改善することも分かってきました(注射をしなくても、固くなった筋膜をほぐすことはできます)。
つまり、筋膜の病態が分かってきたことによって、注目されるようになりました。
たとえば「下肢がしびれて痛いんです」と困っている患者に対して、筋膜層を施術するだけで、その場で症状がかなり改善するということはよくあります。
ここまでで、なぜ坐骨神経痛が生じるのかについて、私の考える3つの病態について解説しました。これらの病態が理解できれば、これまでと違った視点で下肢の痛みやしびれの原因を考えることができます。さらに、皆さん自身がこの3つの病態を改善するためのテクニックを習得すれば、日々の臨床で症状を著明に減弱できることを数多く経験すると思います。
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概要
あぐらや股関節の開排動作は、股関節屈曲・外転・外旋の複合運動で構成され、日常生活、スポーツで高頻度に要求される動作です。日常診療では、これらの動作が困難な患者を多く経験しますが、その制限因子の一つが痛みです。しばしば、股関節の形態的異常であるFAIや寛骨臼形成不全などが背景にあります。そのため、適切な介入をするためには、まず、股関節内または股関節外のどちらが痛いかを身体所見と画像所見から病態を考えることが極めて重要です。関節内の痛みを疑った場合は、医師による関節内注射の反応を評価することで、病態を明確にする一助となります。関節内の痛みに対する徒手療法・運動療法では、関節内への機械的ストレスを減少させるために、関節包筋の収縮を用いて関節包内の運動の再獲得を図ります。
ただし、例え関節内の病態を疑わせる画像所見があったとしても、注射に反応しないこともあります。さらに、関節内に病態がなくても痛みを訴えることもあります。これらの場合、何が痛いのでしょうか?また、関節内に痛みがあったとしても徒手・運動療法で痛みが改善されることもあります。我々セラピストは、何を治しているのでしょうか?私は、この痛みの一つに末梢神経が関与し、末梢神経の滑走障害などが、あぐら・開排時の痛みや可動域制限を生じさせる可能性があると考えています。
本講演では、
①股関節内または股関節外の痛みについて、解剖学的な知識を知ること
②あぐら・開排動作の機能解剖学的な身体所見の取り方を理解すること
③股関節の機能解剖学に基づいた運動療法の進め方を理解すること
を目標に、実際の患者を交えながら紹介します。
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【吉井太希先生】症状改善から再発予防まで ~頚部障害に対する触診・評価・治療でつなぐ臨床実践~
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概要
頚部のアプローチに不安や苦手意識はありませんか?
臨床現場では頭頚部痛や上肢症状を認める症例が非常に多く、これらの症例に対しては頚部を評価して治療する必要があります。
しかし、この評価と治療を行う際には、”触診技術”が問われます。
例えば、上角部痛を呈する症例に対して触診を行い、得られた情報が「肩甲挙筋が硬い」と「肩甲挙筋と後斜角筋間が硬くて筋間に指が入らない」では、どちらが有益でしょうか?
後者においては、末梢神経の知識があると筋間を走行している肩甲背神経を疑うことが可能であり、同神経に対する評価を展開することができます。
その結果、統合と解釈をして肩甲背神経が疼痛に関与していると判断した場合は、肩甲挙筋と後斜角筋間を滑走させるための局所的な徒手操作を実施します。
さらに、これらの筋が再び過緊張位を呈して硬くならないために、胸郭機能や脊椎アライメントの改善を実施します。
以上のように、頚部障害の改善には機能解剖学を踏まえて触診を行い、評価・治療に繋げるプロセスが非常に重要です。
本講演では、以下の①〜③を中心に解説します。
①頚部痛に対する評価と治療
②頚部由来の上肢症状に対する評価と治療
③「①、②」を診るうえで必要な軟部組織の機能解剖と触診のポイント
受講後には頚部の不安や苦手意識を克服し、自信を持って臨床的なアプローチができることを目標とします。
先生方の頚部に対する臨床判断力の構築に貢献できれば幸いです。
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その他の園部企画の講演・セミナー
※新型コロナウイルスの影響により、現在会場セミナーは中止しております。
Zoomセミナーは詳細が決まり次第、掲載していきます。
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